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大自在(5月18日)熱血教師

 テレビ画面を見つめる顔が、少しこわばっているように見えたのだろう。「お前を怒っているわけではないのに」と母から笑い声が漏れたのは半世紀ほど前。画面にはグラウンドの選手を鬼の形相で叱咤[しった]激励する勝沢要さんが大写しされていたと思う。
 清水東高サッカー部を4度全国制覇に導いた名将の訃報が先日届いた。85歳。教え子には「三羽がらす」と称された長谷川健太氏、大榎克己氏、堀池巧氏や武田修宏氏ら後のJリーガーが名を連ねる。
 2003年12月の第4回県市町村駅伝競走大会の前夜、勝沢さんを初めて取材した。熱海市教育長を務めていたが、画面越しに見た熱血教師のイメージしかない。対面を前に緊張したのを覚えている。第1回大会から市の部で連続最下位に沈んでいた熱海市チームの関係者の一人として最下位脱出にかける思いを聞いた。
 勝負師の血が騒いだに違いない。選手の顔を見るたびに檄[げき]を飛ばしてきたという。2年後の第6回大会で悲願を果たすと、「まるで全国優勝したような騒ぎとなった」と喜びを口にした。
 09年には秋の叙勲を受章した勝沢さんに再び取材する機会を得た。当時の肩書は清水エスパルス顧問。「最初は敗北の連続だった」と清水東高の監督時代を振り返った。駅伝の熱海市チームへのエールにも聞こえた。
 「一緒に泣いて、怒ってくれて、選手に寄り添ってくれた」。名古屋グランパス監督の長谷川氏が他界した恩師について語った言葉だ。かつての学園ドラマに登場するような熱血教師が現に存在したのは確かである。

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