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大自在(5月12日)母の日

 きょうは母の日。「母」は昔、ハハとは発音せず、ファファだったという。根拠とされるのが500年ほど前、戦国時代の文献のなぞなぞである。
 「母には二度あへど父には一度もあへず」。母と言う時には2度合って、父と言う時は合わないから、答えは唇。母をハハと発音したら唇は合わない(閉じない)ので当時の母の発音は少なくともハハではなかった、というわけだ。
 現代のハヒフヘホは、かつてファフィフフェフォだったという。上下の唇が合うというなら、ババもパパもそうだろうということになる。日本語のハ行音は、文字を持たなかった昔は「p」音で発音されたという研究に沿えば「母はかつてパパだったかもしれない」と今野真二清泉女子大教授は推測する(「日本語の教養100」河出新書)
 江戸時代になると「f」が「k」に変化してカカになり「かあさま」「おかあ」、そして現代の「母さん」になったという(杉本つとむ著「語源海」)。「母」という字は「女」と、乳房を表す二つの点から成る。
 現代社会は家族も多様化し、女親が男親の役割を兼ねる家庭もあれば、その逆も。重松清さんの短編「カーネーション」は、ある父子家庭の母の日を描いた。
 都心から西へ向かう快速電車の網棚に置き忘れられたのか、1本の赤いカーネーション。気付いた3人の乗客の胸をよぎる母への思いは、白、黄の花色もあるようにそれぞれ。読んだ人には、本稿の導入で「母」の呼び方を取り上げた意図が分かっていただけたろう(新潮文庫「日曜日の夕刊」所収)。

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