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大自在(5月8日)ウエディングドレス

 「この世で最も美しいのは花嫁姿。毎日ウエディングドレスに囲まれているあなたがうらやましい」。敬愛する世界的デザイナーのピエール・バルマン氏にこう言われ、桂由美さんはブライダルファッションに携われる幸せを実感し天職を確信したという。
 1960年代、来日したバルマン氏と車で食事会場に向かう途中、東京・乃木坂の桂さんのブライダル専門店前を過ぎようとした時、バルマン氏が車を止めさせ店に寄った。「自分は年に何回かしかウエディングドレスを手がける機会がない」。それに続いたのが冒頭の言葉で、桂さんは「電気ショックを受けたように身が震えた」。
 桂さんが旅立った。94歳。バルマン氏と天国で再会したら、あの時贈られた言葉にどう返すだろうか。桂さんは日本の結婚式の風景を大きく変えた。60年代に数%だったウエディングドレス着用率は、90%を超える。
 新型コロナウイルス感染症が5類に移行してからきょうで1年。コロナ禍もまた、結婚式の風景を変えた。筆者の長女は親族が集まって白無垢[むく]の挙式だった。ドレス姿は別の日に撮った写真でしか見ていない。
 「2024年版ブライダル産業年鑑」(矢野経済研究所)によると、コロナ禍前の19年に2・4兆円だったブライダル関連市場規模は20年に半減。23年は1・9兆円に回復したとみられ、今後も緩やかな回復が見込まれるという。
 大型連休の街や行楽地の常態にほっとしつつ、にぎわいの中にいながら、何か引っかかるものがあった。思い出したくないが、忘れてはならない。

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