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防災対策「先進県」と言えず 耐震性ない住宅、2003年34万戸→2018年は15万戸【知事選2024 静岡の現在地⑤完】


 1976年に発表された東海地震説以降、官民を挙げた防災対策で“防災先進県”として認知されるようになった本県。重点的に進めた対策の一つが建築物の耐震化だ。国の法改正に先立ってほぼ同等の耐震基準を定めた構造設計指針を策定。木造住宅の耐震補強補助も先駆けて行い、追随される立場だった。だが、他の自治体も対策を強化。もはや、「先行している」とは言えない状況がある。
「2000年基準」を踏まえ、窓を壁に改修して耐震性を高めた工事について説明する杉山佳男社長=10日、静岡市葵区
 静岡市葵区上足洗の無職男性(72)は昨年、2回目の補強工事を行った。リフォームを機に診断すると、現行の「2000年基準」に満たなかったためだ。国は1981年と2000年に耐震基準を改正。16年の熊本地震では81~00年に建てられた新耐震の住宅でも2割弱が全壊や大破だった。
 補強工事を担った建築設計事務所アプスホームズの杉山佳男社長(45)=同区=によると、繰り返す地震で本来の耐震性能は低減し、築後40年たてば老朽化も進む。「新耐震でも倒壊の危険があることを行政は周知すべき」と訴える。
 東京都は23年から独自に2000年基準でも耐震化の状況を把握し、新耐震の木造住宅も補助対象とした。埼玉県も22年、簡易診断の枠を新耐震に広げた。一方、本県は「能登での国の調査などを注視する」(県建築安全推進課)、「技術的な部分は建築部門の意見を踏まえる必要がある」(県危機管理部)などと、具体化していない。
 県内では03年からの15年で、耐震性がない住宅は34万戸から15万戸(うち木造住宅は13万戸)に減少した。耐震化は建て替えの寄与が大きいため、補助事業「TOUKAI(東海・倒壊)―0」だけの効果を評価するのは難しい。ただ、22年度末までの木造住宅耐震補強工事の助成数は2万5818戸で全国1位。県建築安全推進課の篠原靖幸班長は「命を守るという点では有効な手段」と話す。
 しかし、南海トラフ地震では、避難所や仮設住宅、支援の人手など復旧・復興に関わるさまざまな資源が圧倒的に不足する。名古屋大の福和伸夫名誉教授(建築耐震工学)は旧耐震の対策を優先しつつ、「2000年基準を満たせば発災後も生活や社会機能を維持できる可能性が高まる」と対応の必要性を指摘する。
 県の防災行政に長年携わってきた静岡大防災総合センターの岩田孝仁特任教授は「高い目標を掲げて工夫してきたことが今の静岡の基盤となっている」と振り返る。その上で、防災対策全体に通じる課題として高齢化と人口減少を挙げる。津波、孤立などを含めて従来の対策が地域社会の変化に対応できているのか。今後も先進県を自負するには「常に高いレベルで全国に先んじた対策を進めてほしい」と求めた。
 (社会部・中川琳)

 <メモ>国は1981年の新耐震基準で現在の震度6強~7に達する程度に耐える強度を求め、2000年の法改正では接合部や壁の配置バランスを強化した。県は1978年以降、構造別の設計指針や耐震診断、改修基準などを順次策定。建築物の地震対策バイブルとされた。84年、新築の構造計算で法が想定する1.2倍の地震動に対応する設計を求める独自の地震地域係数を設けた。2017年、この基準を条例で義務化した。

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