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医師不足深刻、地域偏在も濃く 10万人当たりの病院勤務医数、全国41位【静岡県知事選 静岡の現在地③医療対策】

 川勝平太前知事の在任15年の間、「医師不足」は常に県政課題だった。静岡県は医学生向けの奨学金制度を拡充して医師数を2割増やし、人口10万人当たりの医師数は、2008年に42位だったのが最新値の22年には39位となり、18年ぶりに40番台を脱却した。ただ、病院勤務医は42位から41位と厳しい状況が続く。全国値は遠く、県内でも東西の地域差という課題が色濃く残る。

患者を診察する鶴山優医師=2日、西伊豆町の西伊豆健育会病院
患者を診察する鶴山優医師=2日、西伊豆町の西伊豆健育会病院

 「へき地には、都市部にはない魅力がある」。西伊豆町の西伊豆健育会病院で、内科医の鶴山優医師(34)=静岡市葵区出身=は目を輝かせる。鶴山医師は県が07年に創設した奨学金制度「医学修学研修資金」の初期の利用者だ。医科大を卒業後、東京都内の医療機関での臨床研修を経て西伊豆を選んだ。細分化する医療に逆行するように患者を多角的に診る「総合診療」を志す鶴山医師にとって、患者層も症状も多様な同病院は「理想的」という。
 同町を含む賀茂地域は、勤務医の偏在が深刻だ。全国330(本県は8)の2次医療圏の中で318位と最下位に近い。過去10年間の増え幅も少なく、限られた医師で地域医療を支えてきた。
 政府は医大の新設を基本的に認めていない。そのため、人口が多い本県は長く苦境に立たされてきた。県は県内勤務により返還を免除する同研修資金を創設して新規貸与者数を「医大1校相当」に拡充、予算を投じてきた。医学部の定員に上乗せする形で本県分の医師養成枠を確保する「地域枠」(15年~)の連携先は全国10大学68枠と、全国屈指の規模とした。
 奨学金制度を利用した県内の勤務医師数は23年に671人となったが、勤務先の地域別では西部350人、東部118人と3倍の開きがある。医師偏在指標は西部と静岡が「多数区域」なのに対して中東遠、富士、賀茂が「少数」。総じて「少数県」とされ、県内の地域差も目立つ。
 この4月には、医師の残業規制が始まった。県の調査では、公的医療機関などから寄せられる医師の不足数の合計が過去最多に迫ることも分かっていて、対応が求められる。
 県病院協会の毛利博会長は「医師不足対策に“特効薬”はない。県の施策は一定の成果を上げた」と評価した上で、新知事には「浜松医科大、県医師会と協会で、ビジョンのすりあわせを行う機会を設けたい」と期待を寄せる。
 (社会部・大須賀伸江)

 <メモ>厚生労働省の調査によると、本県の人口10万人当たりの病院勤務医数は2008年に108.9人だったのが、22年に149.1人になった。同期間で全国平均も同様に伸びていて、毎回、全国値の方が30人ほど上回っている。新人医師と臨床研修病院とのマッチングは好調で、23年度は92.8%と全国9位の高さだった。内定者数は3年連続で過去最多を更新している。

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