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「自民色」抑える大村氏陣営 「オール静岡」演出 躍起【静岡県知事選の構図㊤】

 4月中旬、自民党県連幹部の携帯電話が鳴った。「大村さんをよろしく」。電話の主は派閥領袖(りょうしゅう)に近く、総務省にも影響力を持つ党幹部。県内議員や首長に働きかけを続け、支援に反対した自民関係者には翻意を強く迫ったとされる。

事務所開きで気勢を上げる大村慎一氏(中央)。党派に偏らない「オール静岡」を演出した=1日、静岡市葵区
事務所開きで気勢を上げる大村慎一氏(中央)。党派に偏らない「オール静岡」を演出した=1日、静岡市葵区

 元総務官僚で静岡県副知事も務めた大村慎一氏(60)。過去にも知事選の有力候補として名前が挙がり、2021年の前回選では自民関係者が出馬を打診した。この際は固辞したが、県内政財界との関係構築に地道に取り組んできた。ある経済人は「昨年夏ごろには出馬の意向を固めていたのでは」と推察する。
 川勝平太知事の辞意表明後、大村氏の動きは速かった。わずか6日後に出馬表明し、前浜松市長鈴木康友氏(66)の機先を制した。支援態勢は県OBや静岡高同級生らの急ごしらえだったが、川勝県政で細った県とのパイプを再構築しようと、永田町や霞が関で大村氏を推す声が広がった。
 「政治とカネ」問題で逆風にさらされる自民。独自候補擁立論がしぼむ中、中部経済界の一部が主導した大村氏の擁立は「渡りに船」(県連幹部)だった。川勝知事を支えてきた連合静岡や旧民主系が鈴木氏を推す動きが表面化すると「川勝路線継承」に対する警戒感が急速に高まり、大村氏の推薦へと突き進んだ。
 一本化にこぎ着け、結束を固めたかに見える自民だが、足元はおぼつかない。4月末には一部の浜松市議が党本部を訪問。「党を分断するようなことはしないでほしい」と事実上、大村氏の推薦を見送るよう求めた。城内実県連会長(衆院静岡7区)は「大勢に影響はない」と火消しを図るが「『浜松の乱』だ。内部で割れていては勝てない」と厳しい声も上がる。国政で連立を組む公明党県本部も自主投票を決めた。
 陣営は特定の地域や党派に偏らない打ち出しに苦心し「自民色」を抑えようと躍起だ。1日に静岡市葵区で開かれた大村氏陣営の事務所開き。旧民主党の元衆院議員、無所属の参院議員、県議会ふじのくに県民クラブの一部県議らが駆けつけ「オール静岡」を演出してみせた。
 大村氏は「これまでは大きな力を持つ特定の誰かの声に左右される県政だった」「料亭の密室で物事が決まるのはどうなのか」とスズキの鈴木修相談役を後ろ盾とする対立陣営を当てこすった。鈴木相談役ら地元経済界がドーム型を要望する浜松市の新野球場についても「ドーム型ありきの議論はストップすべき。ゼロベースで再検証する」とぶち上げ、開放型ドームを主張する鈴木康友氏との対立軸を鮮明にした。西部の分断と、中部、東部からの集票を意識したのは間違いない。
 拍手と喝采に包まれる会場。複数の出席者が「よく言った」と振り切った姿勢をたたえる一方、自民のベテラン県議は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。「なぜ対立をあおるのか。向こうの経済界を完全に敵に回してしまった」
      ◇
 9日告示、26日投開票の知事選には新人4氏が出馬表明し、構図がほぼ固まった。異例ずくめの超短期決戦に臨む各陣営の動きを探った。

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