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【現論】衆院3補選から考える 国民は新しい政治を期待(白鳥浩/法政大大学院教授)

 4月28日に投開票された衆院東京15区、島根1区、長崎3区の3補欠選挙に関するフィールド調査を、筆者は教え子とともに実施した。その結果「これまで」の岸田政権だけでなく、日本政治の構造自体を問う選挙であったと同時に、「これから」の日本政治の未来図を浮かび上がらせ、政党政治や公共政策の課題を検証するためのものだったと理解した。

白鳥浩さん
白鳥浩さん


 個々に特色
 三つの補選はそれぞれ特色があった。
 島根1区ではまさに、これまでの日本政治の構造が問われた。島根という「保守王国」で与野党による一対一の対決となり、岸田政権への民意を直接映し出す選挙になった。
 その意味で、島根1区においては政権の「業績」が争点となった。岸田文雄首相(自民党総裁)が4月24日の参院予算委員会で、補選について「(国民の)私への判断も含まれる」と述べ、自分自身に対する評価が影響する、との見方を示していたことからも明らかである。
 長崎3区と東京15区に与党の候補者はいなかった。これを踏まえて国民の「政権交代」への期待が高まっていたとするならば、これからの日本政治の未来図を描く上で、どういった政党、ないしは政党グループが、次の政権を担うのにふさわしいのかを探る選挙であったと言える。
 併せて、これまで一度も政権に参画していない政党や政党グループに対する「期待投票」という性格も持っていた。
 立憲民主党と日本維新の会という野党の候補者同士の一騎打ちとなった長崎3区で、ポイントになったのは「維新は自民の代替政党になりうるのか」という未来図である。昨年7月23日のネット番組で、維新の馬場伸幸代表は自党を指して「第2自民党」と認識しているとの趣旨の発言をした。長崎3区は政策的に「リベラル」な立民と、「保守」である維新の対決と読むことができた。
 なるほど維新は自民と同じ保守の政党であり、問われたのは政権担当能力だったが、勝ったのは立民の候補だ。
 一方で、東京15区には「野党の見本市」として衆院に議席を持つ野党や、政党要件の獲得を狙った諸派の政治団体が候補者を立てた。
 下町を抱える15区には強い「保守」票がある。自民が出馬しないことでその票を巡り、維新や参政党、日本保守党、都民ファーストの会といった勢力がしのぎを削ることとなった。

 問われる野党
 これらの勢力に相対したのは「リベラル」勢の集約を試みた立民であった。結局、自民支持層は割れるか棄権し、立民の候補が勝利して、ここでも維新は自民の代替ではないことを露呈した。自民候補不在の2選挙区で投票率が著しく低下したのは、その証左である。
 今回の補選は立民の全勝という結果となった。派閥の政治資金パーティー裏金事件に起因する「政治とカネ」の問題が自民を直撃し、国民の不信がうずまく中で、問題の抜本的解決を通じた、日本政治の構造刷新が望まれていることが明白になった。
 さらに「政権交代」も立民一党だけでなく、他の野党との共闘が要請されていることも浮き彫りになった。つまり、この補選で岸田政権や与党だけでなく、立民のこれからも問われたわけだ。
 日本政治に今後求められるのは、代替的な政権の枠組み提示と政治の構造を形づくる政党と政策の変化である。それは、政治とカネの問題や野党共闘の在り方に端的に表れていると言えよう。
 補選で全敗を喫した自民にとって、党勢回復はいばらの道だ。
 裏金事件を受けた政治資金規正法の改正にあたって、会計責任者だけでなく議員にも責任を課す「連座制」を導入するなど、抜本的な措置を講じた上で、今国会会期末に合わせて衆院解散・総選挙に打って出なければ、岸田首相が9月の自民党総裁選を乗り切ることは難しい。
 解散・総選挙に踏み切らない場合には、新しい総裁の下での早期解散・総選挙の実施が濃厚である。こうしたシナリオに対して、野党はどういった政権交代の枠組みを示せるかが問われる。国民は期待している。新しい政治を。
 (法政大大学院教授)

 しらとり・ひろし 1968年生まれ。静岡市出身。早稲田大博士(政治学)。英オックスフォード大客員フェローや静岡大助教授などを経て、現職。専門は現代政治分析(政治学、地方自治、国際政治学)。

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