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大自在(5月5日)こどもの日

 御前崎市出身の俳優加藤剛さん(1938~2018年)はテレビドラマ「大岡越前」や映画「砂の器」で知られるが、舞台でも優れた作品に出演している。その一つが1995年初演の劇団ひまわり「コルチャック先生」。
 演じたのは、実在したユダヤ系ポーランド人の小児科医で児童文学者のヤヌシュ・コルチャック(1878~1942年)。ポーランドに開設されたユダヤ人孤児の孤児院で院長を務め、子どもたちのために生涯をささげた。
 子どもの人権を尊重し、施設の運営を子どもたちの自治に任せるなど革新的な教育者でもあった。施設で教育を実践する傍ら、「子どもの権利」という概念の先駆者として、関連の著作を精力的に残した。
 ところが39年、ドイツのポーランド侵攻によりユダヤ人は激しく迫害される。翌年、施設の子どもたちと教師らは劣悪な環境のユダヤ人居住区へ移るよう強いられた。42年にはトレブリンカ絶滅収容所に送られて処刑され、コルチャックは約200人の子どもたちと共に非業の死を遂げた。
 ただ、その思想は後世に受け継がれる。第2次世界大戦の反省から設立された国連は、89年の総会で子どもの権利条約を採択。草案はコルチャックの考えに基づき、ポーランド政府が提出したものだった。現在、締約国・地域は196に上る。
 コルチャックは「子どもはだんだんと人間になるのではなく、既に人間である」という言葉を残した。常に一人の人間として子どもに接しているだろうか。自戒を込めかみしめたい。きょうは「こどもの日」。

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