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大自在(4月29日)年寄りに冷や水

 小学生か中学生の頃だったか、「運動中に水を飲むな」と言われた記憶がある。諸説あるが、駅伝競走の命名者でもあるスポーツ指導者の武田千代三郎氏が1904年、「理論実験競技運動」で「水抜き油抜き」の鍛錬法を紹介したのが最初だとされる。水と脂肪を体から排除し筋肉を増加させようとした。
 今では考えられない「水を飲むな」。スポーツに限らず脱水症状や熱中症による重大な事故は後を絶たない。中高年の脳卒中や心筋梗塞なども水分摂取量不足がリスク要因の一つとされる。
 水を飲んで人命を守る運動を浸透させようと、2007年に厚生労働省後援の「健康のため水を飲もう」推進委員会が発足。「水を飲むな」という誤った常識をなくすことも運動推進の趣旨にあり、ポスターなどで啓発活動を行っている。
 初代委員長を務めた武藤芳照東京大名誉教授(身体教育学)は自著「健康のため水を飲もう」(水道産業新聞社)に、「運動中に脱水を起こさないよう、こまめに水を飲むことを習慣付けることが必要」と記している。
 武藤名誉教授は「年寄りに冷や水」という標語も作った。適切な水分補給が、事故防止や健康増進につながるというメッセージだろう。
 もちろん、元の言葉は「に」ではなく「の」。江戸いろはかるたの「年寄りの冷や水」である。高齢者が、若者に負けないよう元気に振る舞ったり無理をしたりすることへの戒め。スポーツに親しむのは良いことだが、年齢や体力、健康状態に合わない内容や方法であれば、危険もある。肝に銘じたい。

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