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BCP、4月から策定義務化 静岡県内介護事業者 見直し機運高まる 能登地震受け危機感 実効性ある運用へ

 4月から事業継続計画(BCP)の策定が義務付けられる介護事業者で、能登半島地震を受けて実効性のある計画運用や見直しの意識が高まっている。要介護者の屋外避難は難しく、限られたスタッフで施設内の被災生活を余儀なくされる可能性が高い。大規模災害のたびに突き付けられる課題にどう対応するか。関係者は「BCP策定は防災の始まり。終わりはない」と対策に磨きをかける。

大規模災害を想定し、施設の階段に積み上げられた備蓄品=2月上旬、静岡市駿河区
大規模災害を想定し、施設の階段に積み上げられた備蓄品=2月上旬、静岡市駿河区

 海岸線から約300メートルの高台に立地する特別養護老人ホーム「久能の里」(静岡市駿河区)。建物北側に裏山が広がり、東西には川も流れる。大地震による土砂崩れで道路や河川が寸断されれば、避難や救助、支援活動は困難を極める。2022年9月に策定したBCPは「孤立」を前提としたものの、能登半島地震を受けて斎藤升美施設長の悩みは尽きない。「備蓄品は1カ月分ぐらい必要か。でも置く場所もないし…」
 夜間の発災となれば、宿直を含め数人のスタッフで対応に当たることになる。施設利用者の定員は130人。福祉避難所の指定も受けるため、さらに多くの要介護者が助けを求めてやって来るかもしれない。「利用者は通常の避難所で被災生活を送れない。能登の情報を集め、BCPの見直しも考えなくては」と危機感を強める。
 同市葵区で3カ所の介護施設を運営する「まはえ」は、22年の台風15号を機に本格的なBCP策定に乗り出した。非常用電源は2時間ほどしか使えず、防災担当の橋本真奈美さんは「あまり意味がなかった」と振り返る。1カ所の施設は周辺道路の寸断で孤立し、安否を確認する手段もない。「BCPが現実に機能するかどうか。災害で課題を思い知った」という。
 同社では毎年7月にBCPを見直すと決めた。昨年は台風15号の教訓から画像送信もできる無線機を導入。出勤する職員数に応じてシミュレーションし、食事や服薬、口腔(こうくう)ケアなど優先順位に沿って業務に当たる計画だ。横山源太社長は「BCPに完璧はない。能登地震も踏まえて見直し、訓練で職員に浸透させたい」と語る。
 (経済部・金野真仁)
「精神的ケアも大切」 浜松の杉本さん 金沢の1.5次避難所支援 能登地震  能登半島地震が起きた石川県内には障害者や高齢者、妊婦などを優先的に受け入れる「1・5次避難所」が3カ所設けられ、これまで約1400人が入所した。金沢市で支援活動に取り組んだ杉本洋子さん(72)=浜松市=は「生活の介助に加え、精神的なケアも大切」と振り返った。
 介護福祉士として勤務経験を持つ杉本さんは11~13日、金沢市内のスポーツセンターに開設された1・5次避難所で支援に当たった。移動の介助が必要な高齢者も多く、トイレへの付き添いや食事の補助などに取り組んだ。「被災者には顔見知りの人がいない。ゆっくり話を聞き、落ち着いて生活を送ってもらうよう心がけた」と話す。
 同県によると、要介護者は学校などの1次避難所で生活が難しく、2次避難所の確保にも「健常者より時間がかかる」という。杉本さんは「避難所での支援は大変。福祉施設の事業継続は重要になる」と語る。

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