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大自在(4月19日)長谷部誠選手

 「整う」は、手でそろえる行動を表す「トト(取々・手々)」と「ナフ(行う)」が合わさった言葉という。即興なぞかけの芸人は「整いました」と決め台詞。「ととのう」はサウナ愛好者が使うなどして2021年「新語・流行語大賞」の候補にもなった。
 国語辞典や古語辞典には「ととのう」「ととのえる」の語釈や用例が並ぶ。なじみ深い言葉だが、その状態になるには、時に、額に心に汗もかかなければならないようだ。 
 「心を整える。」。08年からドイツで活躍し、今季限りでの現役引退を表明したサッカー元日本代表主将で藤枝市出身の長谷部誠選手(40)の著書である。ワールドカップ南アフリカ大会後の11年に刊行され150万部のベストセラーになった。印税は全額、東日本大震災の被災地支援に寄付された。
 心は鍛えるものではなく、整えるものだと語った。車のエンジンに油をさし、ピアノを調律し、テニスラケットのガットを調整するように心のメンテナンスを常に意識していると。結果を出しているだけに説得力がある。
 引退会見では「難しい決断だったが、今が正しいタイミングだと思う」と述べた。プロ選手としての区切りが整ったと同時に、指導者として進む準備も整ったと受け止めた。
 「ととのえる」は「室内を整える」「味を調える」のように、「整」と「調」の字を使い分ける。両方使う調整という言葉もある。社会や組織には調整が必要なことも多いが、整え、整うまでの過程が大切。長谷部選手の整った引き際とは対照的な事例が幾つも頭に浮かぶ。

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