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大自在(2月23日)吉田のうどん

 かめばかむほど味の出るコシの強い麺。具材はゆでキャベツに馬肉。みそとしょうゆの合わせつゆが引き立てる。これまで食べてきたうどんとの違いに驚いた。山梨県富士吉田市の名物、「吉田のうどん」である。
 店を選ぼうと地図を広げた。ふじよしだ観光振興サービスが作成した「吉田のうどんマップ」。同市内49店舗の所在地を示しているが、妙な違和感がある。南が上で、北が下になっていた。見慣れている地図とは逆さまだ。説明書きには「理由は簡単、富士吉田のシンボル、富士山が基準になっているからです」。富士山を下にはできない、ということらしい。
 南北をひっくり返した「逆さ地図」に、富山県が発行する環日本海・東アジア諸国図がある。1994年に発表され、2012年に範囲を拡大し改訂された。中国、ロシア等の対岸諸国に対し、日本の重心が富山県沖の日本海にあることを強調するため逆さにしたという。
 環日本海の交流を目指して作成したものだ。だが、違う見方もできる。中国大陸を取り囲むように連なる日本列島は、中国の太平洋進出を阻むかのように映る。「逆さ地図」は日本の地政学的な立ち位置も示唆する。
 太宰治の「富嶽[ふがく]百景」に描かれる富士山は、場所や時間によってさまざまな表情を見せる。太宰の受け止め方もさまざま。富士吉田では、月夜に対峙[たいじ]した。「青く燃えて空に浮かんでいる」。
 常識や固定観念に縛られていないか。答えは一つじゃない。どこから見ても、いつ見ても。それぞれに美しく、素晴らしい富士山がある。

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