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大自在(1月26日)紫式部と藤原道長

 〈めぐり逢[あ]ひて見しやそれともわかぬまに 雲がくれにし夜半[よは]の月かな〉。百人一首に選ばれた紫式部の歌である。
 男女間のことのようだがそうではない。相手は幼なじみの女友達だと、出典になった「新古今集」の詞書[ことばがき]にある。旧友を月に見立て孤独な心境を歌にした。
 権勢を望月に例え、この世をわが世と思うと詠んだのは藤原道長(966~1027年)。同じ月を見るにしても紫式部とは随分違う。「源氏物語」の作者と摂関政治を象徴する権力者が同時代を生きたことは、今年の大河ドラマの通りである。
 ドラマは恋愛ストーリーのような始まり方をしたが、二人が幼少期に出会っていたとか、まして恋仲であったとはとても考えられないと専門家は強調する。ドラマはドラマとして、動く王朝絵巻を楽しみたいと思う。紫式部が宮廷政治の機微をどう捉え、実際の出来事が「源氏物語」のどんなところに反映されているかなど興味は尽きない。
 地味でオクテだったというのが通説の紫式部。道長にからかわれたり言い寄られたりしたことは本人が「紫式部日記」に記している。当時は高価で誰にでも手に入るものではなかった紙を十分に与え、自らも愛読者だった道長は大作成立に伴走したと言えるのでは。
 いたるところに照明がともる現代と、平安時代の闇の深さ、月の存在感は比ぶべくもない。きょうは満月。日本の探査機「SLIM(スリム)」の月面着陸成功は喜ばしいが、かといって月が近くなったとは言い切れない。心に映る月は、境遇や心境で人それぞれだろう。

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