テーマ : 新聞一面掲載記事

大自在(1月27日)能登はやさしや

 石川県能登半島を旅して輪島市の旅館に泊まったことがある。40年も前のこと。記憶はおぼろげだが、一つだけ鮮明に覚えている。宿をたつ朝、玄関先で見送ってくれたおかみさんたちの姿。
 別れのあいさつを交わし、随分歩いてから振り返ると、まだこちらを見ながら立っていた。頭を下げると、手を振って応えてくれた。しばらくして振り返ると、まだそこに―。息子ぐらいの年頃の、頼りない旅姿。心配だったのかもしれない。
 能登は多くの旅人と、そんな一期一会を重ねてきた土地なのか。午後4時10分ごろ能登半島を最大震度7の地震が襲った元日の夜。輪島朝市が炎に包まれる映像を前に、学生時代の旅の一コマを思い出していた。
 「能登はやさしや土までも」という言葉があるそうだ。地震から半月余りが過ぎた頃、地元紙北國新聞社の知人から教わった。避難生活が長期化するのに伴い懸念されるのは災害関連死の増加。「能登の人は優しく我慢強いので」。その優しさが悲劇につながらぬよう関連死を防ぐのが地元紙の務めとも知人は言った。
 同紙は「のとはやさしや」のコーナーを設け、避難所からの声や被災者へのエールを、能登町出身のイラストレーターが描く4コマ漫画と共に報じている。紹介されるエピソードに心を温められるのは、被災地の人たちばかりではない。
 本紙も静岡県内の石川県出身者、ゆかりの方が寄せる思いを「私たちの能登」と題して掲載する。「がんばれ、私の生まれ故郷」。メッセージの一つに、「がんばれ」と気持ちを重ねずにいられない。

いい茶0

新聞一面掲載記事の記事一覧

他の追っかけを読む
地域再生大賞