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大自在(2月15日)郵便料金値上げ

 元日の能登半島地震で被災した奥能登で、郵便物の窓口での引き渡しが再開されたのは先月下旬。遅れはあったが、年賀状を手にすることができた住民からは笑みがこぼれた。厳しい日常の中で、紙の上の文面にぬくもりを感じた人も多かったのではないか。
 メールのやりとりは手軽だが、より心の深い所まで動かされるのは郵便だと実感する。手書きの言葉ならなおさらだ。郵便が単なる事業の名称でなく、文化と位置付けられるゆえんだろう。
 郵便料金が今秋にも値上げされる見通しになった。はがきは現行の63円が85円、封書は84円が110円に改定されるという。上げ幅は3割超だ。封書の値上げは、消費税増税時を除き30年ぶりとなる。
 デジタル化に伴う郵便物の減少などから郵便事業は厳しい。全国の郵便ポストのうち、約4分の1は1カ月の投函[とうかん]量が30通以下で、約4%はゼロか1通だったとの調査結果もある。事業維持には値上げはやむを得ないとも思えるが、さらなる郵便離れと再値上げという「負のスパイラル」も想定される。
 本紙で今月初めまで連載した小説「ゆうびんの父」は、近代郵便制度を築いた前島密の生涯を描いた。送料や脚夫の賃金を決め、西洋に学んだ切手や消印を導入するなど、制度の骨格を固めていく様子は興味深かった。
 前島は今日、1円切手の肖像でも知られる。1円切手は消費税率の引き上げに伴う新旧の料金差額を埋め合わせるために需要が増えた。今度の大幅値上げの差額に1円切手だけで対応した時にどうなるか、思わず想像した。

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