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大自在(2024年2月16日・金曜日)記憶にない

 「記憶にない」とは便利な言葉だ。嫌な質問に答えなくていい。本人はうそでもないつもりだろう。盛山正仁文科相が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)関連団体との関係を問われて繰り返している。そう言われる限り、議論も報道も深まらずもどかしい。
 ロッキード事件を巡る国会の証人喚問で小佐野賢治氏が連発した印象が強いが、国会会議録を検索すると、1947年の第1回国会から「記憶にない」旨の発言がいくつも出てくる。歴史ある言葉だ。ロッキード事件の産物ではない。
 ただ、当時のマスコミは発言を面白がって取り上げ、「記憶にございません」を流行語にまで押し上げた。小佐野氏は偽証罪に問われ有罪判決が下ったが、上告中に死去。事件の真相はやぶの中となる。証人喚問は48年前のきょうだった。
 一方、米国でいま議論の的はバイデン大統領の記憶力。言い間違えた言葉を大手メディアがこぞって取り上げる。皮相的に話題性を稼ごうとする一部マスコミの性質は日米問わずネット時代で増幅されている気がする。
 そんな中、地方紙ミシシッピ・フリー・プレスが称賛された。現職の高齢を揶揄[やゆ]し続ける大手メディアに一石を投じ、民主主義を脅かす放言を繰り返すトランプ前大統領をあえて地方から敢然と批判した。
 ドナ・ラッドCEOはジャーナリストの取材にこう答えている。「大手メディアは自らの業界を守ろうとし過ぎている。私たちは民主主義を守ることに全力を注ぐべきだ。それが業界を守ることになる」。自戒を込め記憶に刻みたい。

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