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茶業振興 新市場開拓 和紅茶や輸出 軸に模索【検証 24年度 静岡県予算案㊦】

 新茶シーズン前の静岡茶市場(静岡市葵区)に、約130人の市場関係者が詰めかけた。茶商らが熱心に品質を確かめていたのは、煎茶ではなく紅茶だった。2月上旬に開かれた同市場の売手、買手両懇話会の合同研修会。専門家を招き、県産紅茶と海外産の紅茶を素材に審査技術の講習が行われた。

県産紅茶や海外産紅茶を素材に審査技術を学ぶ茶商ら=2月上旬、静岡市葵区の静岡茶市場
県産紅茶や海外産紅茶を素材に審査技術を学ぶ茶商ら=2月上旬、静岡市葵区の静岡茶市場
茶業振興関連事業
茶業振興関連事業
県産紅茶や海外産紅茶を素材に審査技術を学ぶ茶商ら=2月上旬、静岡市葵区の静岡茶市場
茶業振興関連事業

 全国茶審査技術競技大会で優勝経験のある成岡謹三商店(同区)の藤田浩介営業部長は、紅茶の味の多様さに目を見張りつつ「煎茶の目利きには自信があるが、紅茶に関しては素人。緑茶は商品が出尽くしている。固定観念にとらわれず、消費者へ茶を届ける努力が必要」と話した。
 本県茶業は消費と茶価の長引く低迷により離農に歯止めがかからず、摘採面積は年間約500ヘクタールのペースで減少が続いている。2022年の本県の荒茶生産量は前年比3・7%減の2万8600トンとピーク時からほぼ半減した。23年の一番茶生産量も前年比13・7%減の9060トンで過去最低を更新した。
 業界の危機感が強まる中、近年は新たな市場開拓の動きが活発化している。静岡茶市場の紅茶研修会もそうした試みのひとつで、同市場では昨年、紅茶の入札会を3回開催。需要が広がる和紅茶に目を付け、集積拠点化も視野に入れたPRを進めている。
 団体間の連携を見直す動きもある。長年課題とされてきた生産団体と商工団体の連携強化に向け、両団体が加盟する県茶業会議所を中心に、近くNPO法人を新設する。静岡茶のブランド化や茶ツーリズムを提案するほか、中東向けの輸出促進も計画する。関係者は「会頭の肝いりの団体。学者やメディアなど他職種も巻き込み、実効性のあるNPOにしていくことが使命だ」と明かす。
 県はこの動きに呼応し、24年度当初予算案に業界再興に向けたグランドデザインづくりの事業費300万円を計上した。各団体の役割を見直して再定義し、他産地の先進事例の調査などを盛り込んだ報告書を作成する。指針を明確にし、官民連携の歩調を合わせる狙いだ。
 視線の先には海外市場がある。23年の輸出額は前年比33・3%増の292億円と過去最高を記録した。県茶商工業協同組合の長瀬隆理事長は「特に有機の抹茶が伸びている。ただ、有機転換が進まず生産が追いついていない。商機を逃さないために生産と販売の両輪で対応できる体制づくりが急務」と説く。
 県は24年度、有機栽培に必要な機械や施設への補助事業を始め、輸出拡大の基盤づくりに着手する。補助率は2分の1で上限1500万円と手厚い。県お茶振興課の佐田康稔課長は「消費動向が変わる中で、いかに市場で求められるものを作れるか。需要を的確に捉えた支援や情報発信を強化したい」と話す。
 (経済部・垣内健吾)

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