⚾浜松開誠館 初の8強から一気呵成 高校野球静岡大会で初頂点
第105回全国高校野球選手権記念静岡大会最終日は29日、草薙球場で決勝を行い、浜松開誠館が東海大翔洋を破り、108校107チームの頂点に立った。甲子園出場は春夏通じて初めて。初の8強入りを果たすと、勢いに乗ったナインは、一気に夢の舞台へ駆け上がった。浜松開誠館は初回から点を取り四回には打者一巡の猛攻で4得点。その後も不振にあえいでいた吉松礼翔に適時打が生まれるなど打線が爆発した。先発近藤愛斗は8点を失いながら直球で押し完投。東海大翔洋は14安打を集め、終盤に底力を見せたが及ばなかった。
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▽決勝
浜松開誠館110403030―12
東海大翔洋000300131―8
▽二塁打 深谷、近藤、吉松、新妻、加藤(浜)牧野、松本、茂谷(東)▽暴投 近藤(浜)
▽試合時間 3時間3分
【評】浜松開誠館が18安打の猛攻で東海大翔洋を振り切った。
浜松開誠館は初回、好機に加藤が左前へ適時打を放ち先制。二回にも深谷の適時二塁打で追加点を挙げた。さらに四回には打者一巡で4得点。3点差に迫られて迎えた六回には吉松、鈴木の連打で突き放し、八回にも3点を挙げた。今大会初先発の近藤は初回から140キロ台中盤の直球で押す力投。8点を失ったものの、9回を投げ抜いた。
東海大翔洋は四回に3点を返し、終盤にも下位の連打などで反撃したが、粘る近藤の前に力尽きた。
近藤1人で投げ抜いた118球
今大会初の先発 エースのプライド 直球信じ真っ向勝負 「直球で押す」。その思いだけで、浜松開誠館の近藤はマウンドに立ち続けた。今大会初の先発で8失点。だが、自分のスピードボールを信じ、打たれても目いっぱいに腕を振った。反撃にあった九回2死。最後の打者を三振に打ち取り、険しい表情にようやく笑顔が戻った。苦しみ抜いた絶対的エースが、最後に示した意地の118球だった。
今大会は本来の働きができず、ずっと責任を感じていた。調子が上がらず、準決勝までの登板機会は全て救援。「ボールに気持ちが伝わっていなかった」と打たれて下を向いてしまった。
決定的だったのは藤枝明誠との準決勝。5点リードの場面で登板したが、2者連続四球を許し、直後にストライクを取りに行ったところを痛打された。わずか1イニングでの降板。「1番を背負っているのに、何をやっているんだろう」。その後逆転された場面をベンチで見詰め、後悔が募った。
それでも仲間が勝利をもたらし、自分を救ってくれた。だからこそ「次は絶対に自分がやってやる」。決勝前日、佐野監督から先発を言い渡され、気持ちが奮い立った。
決勝のマウンドに立った近藤は初回から140キロ台中盤の直球を連発。闘争心を前面に出す力投に打線も猛打で応えた。指揮官は「エースがど真ん中で勝負してくれた。その思いを全員が感じ、打って点を取ろうとベンチでも声が飛んでいた」と評価した。
全員でつかんだ初めての甲子園。「自分が先発で投げ、チームに勝ちをもたらす投球をしたい」。あこがれのマウンドで自慢の直球を武器に、全国の強打者に真っ向勝負を挑む。
(吉沢光隆)
浜松開誠館の横顔
1924年に誠心高等女学校として開校。現校名には98年に変更され、男女共学化した。野球部は同年創部。サッカー部やバスケットボール部も強豪として有名。主な卒業生はサッカーJ2清水のMF竹内涼や、磐田のDF松原后ら。来年度に創立100周年を迎える。生徒数(高校)は965人。浜松市中区松城町207の2。高橋千広校長。
打線は つないだ出場全員18安打
12点 口火は2年生・加藤 出場した10人全員の18安打を達成した浜松開誠館。猛打に火を付けたのは5番・加藤の一打だった。一回2死一、三塁、最初の好機に2ボール2ストライクと追い込まれたが「コンパクトにいこう」と直球を逆らわずに左前にはじき返した。
「先輩たちがつくってくれたチャンス。先制点を取ってチームに勢いを付けたかった」。藤枝明誠との準決勝でも先制のスリーランを放った2年生は、場面に応じた打撃で決勝まで13打数7安打8打点と起用に応えた。
4回戦からスタメンに抜てきされた。「3年生とやるのはこれが最後。1日でも長くやれるように」と一戦一戦を大切にしてきた。決勝でも3安打2打点。「甲子園でもバッティングを生かして、チームを勢いづけるようにしたい」と、下級生らしい思い切りの良さを発揮する。
不振の吉松 最後に3打点 「目指してきた打ち勝つ野球を全員で達成できた」。チームの大黒柱・吉松が決勝でこれまでの鬱憤(うっぷん)を晴らした。準決勝まではわずか17打数1安打。「チームメートに助けてもらったので、最後は自分がという気持ちだった」と、中押しの2安打3打点で主将の役目を果たした。
昨夏は春の東海大会を制し、第1シードで臨んだが初戦(2回戦)敗退。昨秋は県大会準々決勝で加藤学園に打ち負け、今春も県大会準決勝で加藤学園の投手陣を打ち崩せなかった。「夏までに打ち勝てるチームにしよう」と目標を掲げ、決勝は18安打12得点とその成果を示した。
打撃不振だった吉松は、その間もやるべきことをやった。藤枝明誠との準決勝は中堅へ抜けてもおかしくない打球を出足の速さ、読みの鋭さでことごとくアウトにした。「守備練習に徹して取り組んだ」と、自分の持ち味でチームに貢献し続けた。
全体練習は週休2日で土、日曜日は半日練習と、県内の強豪野球部では異例だが、「短い時間の中で主体性のある練習に工夫して取り組んできた」と胸を張る。創部初の甲子園へ「自分たちらしく思い切った全力プレーを見せる」。
(結城啓子)
歓喜のナイン コメント集 ①近藤愛斗投手
直球で押すことを意識。最後は三振を狙った。完投できて良かった。
②新妻恭介捕手
準決勝でミスした分、チームを勢いづけたかった。ほっとした。
③広崎蓮外野手
力まずに打てた。(救援は)頭にあったが近藤が踏ん張ってくれた。
④鈴木爽愛内野手
緊張はなかった。守備で貢献しようと思い打撃にもつなげられた。
⑤赤尾健輔内野手
自分たちの野球ができた。甲子園では好機で一本出したい。
⑥吉松礼翔内野手
好機で回してくれたので打つことができて良かった。皆に感謝。
⑦本多優外野手
出られなくてもチームが勝てばと思っていた。自信につながった。
⑧深谷哲平外野手
(適時二塁打は)甘めのカーブを逆方向へ狙い通りに打てた。
⑨本多駿外野手
浜松出身者として地元で甲子園に出られてうれしい。打撃で頑張る。
⑩内木喜斗内野手
見ていて一丸となっていた。持ち味の打撃を準備したい。
⑪松井隆聖投手
近藤さんが粘り強かった。打ち合いだったので投げるつもりだった。
⑫森口謙太郎捕手
一人一人の持ち味が優勝につながった。投手をベストで送り出したい。
⑬加藤蔵乃介内野手
先制して勢い付けたかった。3年生とやるのは最後。1日でも長くプレーしたい。
⑭竹内文太内野手
途中出場でわくわくした。ゴロで間を抜ける打球が打てた。
⑮大迫翔輔内野手
二回はしぶとくバットに当てられた。甲子園でのびのびプレーしたい。
⑯佐野夏之介内野手
持ち味は打撃。自分らしい力強いプレーでチームに貢献したい。
⑰山根楓斗外野手
自分の仕事(走塁や一塁コーチ)をしっかり果たして頑張る。
⑱伊波龍之介投手
出番はなかったが最後まで気持ちを切らさずに準備してきた。
⑲山本篤輝外野手
相手の配球分析などチームのためになることを全力でやれた。
⑳福田壱基外野手
大事な場面での代走や三塁コーチとして緊張せずにやりきれた。
かつて指導 中村紀洋氏も祝福
2021年まで非常勤コーチとして浜松開誠館の指導に当たった、現中日打撃コーチの中村紀洋氏はツイッターで「浜松開誠館高校野球部、初優勝おめでとう」とコメントした。佐野監督も試合後、「技術は継承されている。ノリも喜んでくれると思う」と話していた。